喜如嘉の神さま

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沖縄本島北部の大宜味村に、喜如嘉(きじょか)という地区があります。

喜如嘉といえば、芭蕉布(ばしょうふ)。それから春先に咲く花、オクラレルカも有名ですね。

今から5年ほど前の夏、まだ沖縄の文化とか琉球の歴史とか、なんにも知らなかった頃、私たちは喜如嘉の七滝という場所を目指して、国道58号線を北上していました。いったい何をきっかけに喜如嘉の七滝を知ったのか、それさえもまったく覚えていませんが。

喜如嘉のヒンバムイからの景色

喜如嘉の集落に到着しても、私たちはレンタカーをとめることなく、真っ直ぐ七滝を目指していたと思います。

当時は標識など特になく、スマホでどなたかのブログに書かれていた目印を探しながら、集落内の細い道を行ったり来たりしていました。

喜如嘉にて、ゆっくり走ろう

散々道に迷って、ようやく見つけたそれらしき細い道。車で入って良いのかわからないような幅の道を、ゆっくり進んでいると、右側に待避所のようなスペースがあって、そこに作業車と、何やら作業をしているおじさんたちが見えました。

ああよかった。車が通れる道だった。

私たちはホッとして、おじさんたちに道を譲ってもらうのを待ちました。

ただその時、少し気になることがありました。車の気配に気づいた一人のおじさんが、振り返ってこちらを見た時、急にこわばったような、険しい顔をしたような気がしたのです。

こんな所まで『わナンバー』が入ってきたら、怒られるのかな。と、あんまりいい気はしませんでした。

作業車をなんとか交わして、私たちはついに、喜如嘉の七滝を見つけることができました。

喜如嘉の七滝へ続く道
七滝へ続く道

自然の音しかしない静かな場所で、聞いたことのない、鳥なのか虫なのか、野性の声と、自分たちが草木を踏む音。

喜如嘉の七滝
喜如嘉の七滝

滝の音がどれぐらい聞こえていたかは覚えてなくて、少し怖いような、不思議な空間でした。

言葉を忘れて立ち尽くしていると、後ろから人の気配がしました。さっき、険しい顔を見せたおじさんでした。あぁ。やっぱり怒られるんだ。と思いました。

「こんにちは。」

お互いに挨拶を交わすと、おじさんは言いました。
「観光ですか。」
「はい。」
「そうですか。いや。こんな所までレンタカーが来るのは珍しいのでね。」
とそれだけ言うと、おじさんは去って行きました。

おじさんは何をしに来たんだろう…。喜如嘉からホテルへ戻る道中、やはり気になったので夫に話してみました。
「さっきすれ違ったおじさん、怖い顔したなぁ。」
「そうなん?全然気づかんかった。」
「後から追いかけてきたやん?」
「あぁ。なんか来たなぁ。」
「ナイチャーに入ってこられたら迷惑やったんかな。」
「さぁ…。わからんなぁ。」

なんとなくモヤモヤは残るけど、私しか気づいていない出来事だったので、あまり気にしないことにしました。

沖縄の海に沈む夕日

楽しかった沖縄旅行はあっという間に終わって、大阪に帰ってきました。

帰ってきて2、3日が過ぎたころ、私は自宅でお化粧をしていました。

沖縄で日焼けした肌は、日を増すごとに黒くなってきて、さすがに無防備すぎたなと反省しかけた次の瞬間、私の頭の中でパシーン!とシナプスがつながる音がしました。

思い出したのです。

あの日、喜如嘉の七滝へ続く細道を通った時、私は、車の中で顔パックをしていたんだということを。

沖縄の日焼け後に顔パック

しかもこんなわかりやすい顔パックシートじゃない。とりあえずの間に合わせで、ティッシュを細長く折り畳んだところにクールダウンジェルを塗り、鼻の上に一文字、あごから頬にかけてV字型にティッシュを貼り付けた顔で、私は助手席に座っていたのです。

おじさんからしてみれば、顔中に何か白いものが付いた女を助手席に乗せた『わナンバー』が、森の奥深くへ入っていくわけです。ケガをしているのか。もしかして猿ぐつわか…。っていうか、ただの不審者やん。

きっとおじさんは、私たちを心配して様子を見に来てくれたんだ。

私は車を降りるときにパックを外し、何事もなかったかのように七滝を見ていました。だから何事もないのを確認したおじさんは、多くを語らずにその場を去って行った。そう考えるとつじつまが合います。

ほんまに…。怒られるだの、追いかけてきただの、ナイチャーを迷惑がるだの、なんてひどい言い様。顔がこわばるのは当然!いい気がしなかったはおじさんの方!モヤモヤしてる場合やあらへん!全てはアンタの顔パックのせいだからねー!と、あの時の自分に言ってやりたい。

私は深~く、反省したのでありました。

喜如嘉にて、よい子の生活リズム

当時はまだ、沖縄の人たちの温かさや人間味を知りませんでした。

でもあれから何度も沖縄に行って、いろんな人に出会って、魂胆とか言葉の裏側とかそういうのがない真っ直ぐなやり取りに、何度も心撃ち抜かれ、わからないことは他の人に聞いてまで答えてくれようとする親切心に、何度も心洗われ、困っているのを見かけたら車を停めてでも声をかけてくれる優しさに、何度も救われ、どういう理由なのかわからないニッコリにつられて、何度もニッコリしてきました。

そしてそういう出会いはいつも、すっとやって来て、すっと去って行きます。改めてお礼を言いたいと思って探しても、その場にはもう誰もいない。

まるで神さまに出会ったかのような気持ちになるときがあるのです。

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4 thoughts on “喜如嘉の神さま

  • 2018年10月4日 at 11:34 AM
    Permalink

    こんにちは。
    いやー、ラストの大どんでん返し
    笑いをこらえるのが大変でした。

    沖縄には生活に溶け込んだ
    神聖な場所がたくさんありますもんね。

    そこに観光客、いわばよそ者が
    お邪魔するわけですから
    地元のおじさんの表情も気になりますよね。

    心配しておじさん、見に来てくれたんですね・・・(笑泣)

    ハラハラしながら読んでいたので
    モヤモヤが晴れて私もすっきりしました。
    やっぱりいいなー沖縄。人も島も。

    Reply
    • 2018年10月4日 at 12:25 PM
      Permalink

      ルッコラさん

      ふふふ。ありがとうございます。
      そうなんですよ。お邪魔しちゃっていいのかなって、心のどこかで罪悪感があったんでしょうね。

      ほんとは温かいおじさんだったのに、その時は気づけなかったんですよ(/ω\)

      ねぇ。書いてて、また沖縄に行きたくなりました。

      Reply
  • 2018年10月4日 at 1:07 PM
    Permalink

    わぁ!クイナさん、コメントが重複しちゃってごめんなさい!

    Reply
    • 2018年10月4日 at 1:13 PM
      Permalink

      ルッコラさん

      いえ。こちらこそ、なんかごめんなさい。
      コメントを承認制にしていて、表示に時間差があるんです。注意書きしておかないといけないですね。
      すみません。

      Reply

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